海外留学研修印象記
2019.11.30
沖縄協同病院2年次研修医 里村英章先生
2019年11月最後の週を利用して、米国ミシガン州Ann Arborにあるミシガン大学病院総合内科に1週間Observershipを行ってきた。
那覇から東京を経由し、更にニューヨーク経由でデトロイト空港に向かうと、大学が用意してくれた迎えの車がいた。そこから車を走らせること30分ほどでAnn Arborにある病院指定のホテルに到着した。
ホテルから大学病院まではおよそ5キロ歩度の距離があるが、これも毎日無料の手配車が往復の送迎を行ってくれる手厚いサービスがあった。
初日の朝、ホテルから病院へと向かう道のりを眺めてみる。Ann arborという街自体、ミシガン大学の一部という雰囲気で正直どこからどこまでが大学の敷地なのか分からないぐらい大きい。森の中の様な道を走り、しばらくすると丘の上にミシガン大学病院、がんセンター、小児産婦人科病院、眼科病院といった建物が巨大要塞のように現れ、圧巻とする。
大学病院に到着し、ロビーで病院事務で今回の研修の手続きなどを全てサポートしてくれたKatieに案内され、1週間のプログラムが始まった。
病院6F病棟内の1室が医局の様になっており、バソコンが8台ほどある。そこでGIMチームの医師と学生が黙々とカルテを書いていた。そして、程なくするとこのチームのAttendingであるProf.Flandersが現れた。今回、自分がミシガン大学研修の動機ともなった、沖縄での教育回診で症例プレゼンを担当した時の担当講師がまさしく、このProf.Flandersであった。沖縄でのプレゼン内容についても「君のことは覚えているよ。僕が沖縄で最初に担当したレジオネラ肺炎の時のプレゼンターだろ?尿中抗原は陰性で、培養結果を待たずにレジオネラと自信を持ってアジスロマイシンを入れて軽快した症例だったな。あの強気な姿勢には驚かされたよ。」と症例内容をよく覚えてくださっていた。
GIMチームのメンバー構成は、Attending(主治医)のProf.Flandersの元に、Senior1名、Resident2名、StudentDoctor2名がいる。
基本的にResidentがそれぞれ5-7名程の患者を担当し、チームとしては常に10-15人の患者を受け持っている。Seniorはその全員の患者を把握する必要があり、Attendingも同様である。Residentについては自分の担当以外の患者についてはそこまで情報を持っていない印象があった。StudentDoctorは日本でいう研修医の位置づけとみてよいだろう。2名のStudentDoctorはそれぞれ2名ずつの患者を担当し、朝6時から始まる情報収集からアセスメント作成、治療方針の決定、Resident監視下でのオーダ出し、Attendingへのプレゼンを行う。通常業務は大体朝の8時から始まり、そこでStudent DoctorかResidentによる新入院のプレゼンがAttendingに対してされ、Feed Backを受ける。そして9時から回診が始まる。今回のObsrvershipで驚いたことの一つがこの回診の様子である。まず想像以上に回診に時間をかけていることだ。1人の患者のベッドサイドに行く前に、部屋の前で5-10分のプレゼンとディスカッションがされる。無駄な議論はなく、ここで患者の治療方針が決定されている印象だ。そして、患者に会うときは、「100%」AttndingであるProf.Frandersが患者と話す。ここではResidentoやStudent Doctorが出る幕はあまりない。指導として聴診器を当てさせたり身体所見をとらせてくれるぐらいだ。(これは自分もやらせてくれた。)
どういった理由かは明確な理由は分からないが、おそらく患者に対してのAttending(主治医)としての責務を果たしている、ある種のパフォーマンスの要素も含まれているのかもしれない。
いずれにせよ、カンファレンスから始まり、学生への指導、回診まで、チームにおけるAttendingの介入というのは日本の常識に慣れている私からしたら想像以上であった。
回診は毎日約2時間ほどの時間をかけてじっくりと行われる。その後はカルテ記載や新患対応などの縛りのない時間に入る。
そして、Student Doctorは毎日11時からランチ前の1時間の講義があり、病院をローテーションしている学生は全員講義室に集められる。指導医からのパワーポイントを使った症例提示中心のレクチャーだが、これが抜群に面白い。寝ている学生は1人もいない。みんな6時から休みなく動き回っているのにも関わらず。これは学生のモチベーションもあるだろうが、それ以上に講義の内容の充実に起因しているだろう。勿論、実習の態度が後のマッチング評価に影響してくるということもあるだろうが。。。
今回のobservershipを通して、世界最高峰の大学病院の診療チームの1日、1週間の流れを肌で感じることが出来たのはこの上なく贅沢な経験であった。帰りも朝の5時半ホテル出発と早い時間であったが、行きと同じ病院が用意してくれた送迎に乗り帰路についた。行きも帰りもPhilipというフランス系のアメリカ人で沢山の話をした。その中で、”ミシガン大学病院は良い病院だろ。でもあそこに行ける患者は限られている。 本当に信じられないぐらい金が掛かるんだ。”と言っていた。充実の医療体制や、ホワイトな診療時間を担保するものの正体にも目を向けなければならない。最後まで考えさせられる1週間であった。